AIが面接を均一化する。だから学歴が回帰する
「最近の候補者は、みんな受け答えがうまい」——大手企業の採用に関わる知人から、そんな話を聞いた。一社の印象論かもしれない。気になって公開調査に当たると、裏付けはすぐに見つかった。2026年卒の就活生のうち、就職活動で生成AIを使った人は 66.6%——3人に2人だ(マイナビ調査、2025年4月)。用途の筆頭はエントリーシートの推敲と作成。面接の想定問答も、いまはAIが相手をしてくれる。
私はエンジニアで、AIを毎日使って仕事をしている。だから学生を責める気にはまったくならない。使えるものを使うのは合理的で、私が学生でも間違いなく使う。考えたいのはその先だ。全員の出力が揃ったとき、選ぶ側はどうするか。
均一化は「上げる」のではなく「潰す」
生成AIが採用にもたらす効果は、平均点の引き上げとして語られることが多い。だが選抜の観点から見ると、本質は分散の圧縮だ。
面接やエントリーシートは、候補者のあいだに差がつくから選抜装置として機能してきた。全員が破綻のない志望動機を書き、全員が滑らかに受け答えする世界では、この装置の解像度が落ちる。30分の面接で見えていたはずの差が、見えなくなる。
差がつかない指標を、評価者は使い続けられない。実際、企業側でも動きは始まっている。生成AI活用を推進する企業への調査では、88.4%がすでに新卒採用戦略を見直したと答えた(アカリク調査、2025年9月。母集団はAI推進企業112社に限られる点に注意)。では、評価の重心はどこへ移るのか。
一夜漬けできないものへ
答えは「AIでは一夜漬けできないもの」だと私は考えている。そして日本の新卒採用でその筆頭にあるのは、残念ながら、あるいは当然ながら、学歴である。
学歴は面接前夜に準備できない。それは10年単位の学習の積み重ねの記録であり、本人の先天的・後天的な能力と、継続的な努力の証明になっている。さらに言えば、そこには間接的に親の財力と伴走力も透けて見える。塾に通わせる経済力、学習を続けさせる家庭の運営力。表立って語られることは少ないが、シグナルとしてはそう機能する。
評価者が見ているのは応募者の能力そのものではなく、応募者が発するシグナルの信頼性である。
これはシグナリング理論1が半世紀前に定式化した構図だ。学歴が「汚染された」シグナルであるという批判は正しい。親の資本が混入しているし、22歳以降の成長を写さない。それでもなお、面接もESも均一化した世界では、偽造コストの高さにおいて学歴に並ぶ既製のシグナルがない。企業にとって学歴は、最も安価で最も改竄されにくい選別装置として、むしろ価値を増すはずだ。
礼賛でも、否定でもなく
誤解されたくないが、私はこの帰結を歓迎していない。学歴偏重には実力とのミスマッチという明確なコストがあるし、家庭の経済力が子の機会を規定する構図の固定化でもある。
ただ、歓迎するかどうかと、起きるかどうかは別の問題だ。この構図が正しければ、AIの普及は皮肉にも「AI以前に積み上げたもの」の価値を押し上げていく。まだ仮説だ。だから上のコールアウトにも仮説と書いた。この仮説が正しいかどうか、公開データを追いながら確かめていく——それがこのサイトでやることのひとつだ。子どもの教育について何かを決める立場にある人が、判断材料として使えるように。
1 Michael Spence による市場シグナリングの理論(1973)。学歴は取得コストが能力と相関するため、能力を直接測れない雇用者にとって検証コストの低い代理指標として機能する。本稿の主張は、他のシグナルが均一化することでこの機能が相対的に強まる、というもの。
調査出典: マイナビ「2026年卒 大学生キャリア意向調査<就職活動におけるAI利用>」(2025年4月)/アカリク「AI×新卒採用要件変化調査」(2025年9月)。数値の詳細と限界はレポート記事を参照。