2026.07.18 Category REPORT Reading 6 min

生成AIで事務職の求人環境は悪化しているのか——有効求人倍率の14年を確認する

「生成AIが書類仕事を代替するなら、事務職の求人はいずれ減るはずだ」という語られ方をよく見る。この記事で確認するのは、厚生労働省「職業安定業務統計」(一般職業紹介状況)が公表する職業別有効求人倍率(求人数を求職者数で割った、需給バランスの指標)であり、求人の絶対数そのものではない。倍率の低下は求人数の減少・求職者数の増加のいずれでも起こり得る点に留意しつつ、生成AI登場前の2012年度から直近の2026年5月まで確認すると、話はそれほど単純ではない。

事務職の有効求人倍率は、職業計の3分の1程度で推移している

直近(2026年5月、季節調整前の実数・パートタイムを含む常用)の有効求人倍率は、職業計が0.99倍に対し、事務従事者は0.35倍、事務従事者の中でも「一般事務従事者」は0.29倍にとどまる。事務従事者全体では求職者約3人に対して求人が1件、一般事務従事者に絞ると求職者3〜4人に対して求人が1件という水準だ(厚生労働省が同時に公表する季節調整値の「正社員有効求人倍率0.99倍」とは別の系列・別の定義の数字で、たまたま同じ値になっている)。

職業別有効求人倍率(2026年5月、季節調整前の実数・パートタイムを含む常用)
区分有効求人倍率前年同月差
職業計(全職業の合計)0.99倍-0.06pt
事務従事者0.35倍-0.04pt
 うち一般事務従事者0.29倍-0.02pt

この低さは、生成AI登場後に始まった現象ではない

2012年度から2025年度までの年度平均を追うと、事務職の有効求人倍率が職業計より際立って低いこと自体は、少なくとも14年前から一貫している。

職業計と事務従事者の有効求人倍率(年度平均、パートタイムを含む常用)
年度職業計事務従事者事務/職業計の比率
2012年度0.74倍0.24倍32.4%
2016年度1.25倍0.41倍32.8%
2018年度(コロナ前ピーク)1.46倍0.50倍34.2%
2020年度(コロナ急落)1.01倍0.35倍34.7%
2022年度(ChatGPT公開を含む年度)1.19倍0.44倍37.0%
2023年度1.17倍0.45倍38.5%
2024年度1.14倍0.44倍38.6%
2025年度1.10倍0.42倍38.2%

2022年度以降はe-Statの区分名で「事務従事者」の値。e-Statでは2012〜2022年度は旧区分名「事務的職業」で、2022年度以降は新区分名「事務従事者」で公表されており、2022年度は両区分が重複している。この重複年度の値は、旧区分「事務的職業」で0.45倍、新区分「事務従事者」で0.44倍と近い値が確認できる。

年度平均では「急落」は見えないが、直近の単月比較では様子が違う

事務職の有効求人倍率を職業計で割った比率で見ると、2012〜2015年度の32%程度から2022年度以降は37〜39%まで、年度ごとの変動を伴いながら長期的には上昇している。この上昇自体は2016年度あたりから生成AI登場前より続いていた流れで、2022年度以降の年度平均を見る限り、生成AIの普及本格化と同時に事務職の相対倍率が急落した形跡はない。

ただし、直近月(2026年5月)を前年同月(2025年5月)と比較する、単月の前年同月比較で見ると、様子が異なる。ポイント差だけを見ると事務従事者の低下幅(-0.04pt)は職業計の低下幅(-0.06pt)より小さいが、母数が異なるため、これをそのまま「相対的に悪化していない」根拠にはできない。前年同月(2025年5月)の値を逆算すると職業計1.05倍・事務従事者0.39倍となり、低下率で比較すると職業計が約5.7%減であるのに対し、事務従事者は約10.3%減と、割合で見ると事務職全体の方が職業計より大きく低下している。「事務/職業計の比率」も2026年5月時点では約35.4%で、前年同月(約37.1%)や2025年度平均(38.2%)から低下に転じている。

ただし、この10.3%減という下げ幅は、記事冒頭で見た「一般事務従事者」単体の動きとは一致しない。一般事務従事者の前年同月値を同様に逆算すると0.31倍(現在0.29倍・前年同月差-0.02pt)で、低下率は約6.5%となり、事務従事者全体の約10.3%減よりも、職業計の約5.7%減に近い。したがって、事務従事者全体の低下を、そのまま一般事務の急速な悪化と解釈することはできない。全体と一般事務の差には、会計事務・営業事務・生産関連事務・事務用機器操作員といった一般事務以外の内訳の倍率低下や、内訳間の求人数・求職者数の構成比の変化が影響した可能性があるが、各内訳の倍率や構成比までは確認していないため、どの内訳が全体の低下を牽引したかは特定できない。逆に言えば、定型的なデータ入力を含む事務用機器操作員や会計事務など、一般事務以外の内訳にこそ大きな低下が起きている可能性も排除できず、内訳ごとの詳細な検証は今後の課題である。年度平均という粗い単位でも、内訳を合算した「事務従事者」という単位でも見えなかった、直近月・内訳別の変化であり、これが一時的な変動なのか、トレンドの転換点なのかは、この1時点のデータだけでは判断できない。

この記事の限界

  • 有効求人倍率は「その時点で出ている求人・求職の件数」を示すストックの指標であり、生成AIによる業務代替や企業内でのAI利用実態を直接測るものではない。倍率の低下は求人数の減少・求職者数の増加のいずれでも起こり得るため、この統計だけで「求人が減った」と断定することはできない
  • 「事務/職業計の比率」は、公表されている職業計と事務従事者それぞれの有効求人倍率から本記事が算出した値であり、厚生労働省・e-Statが比率として公式に公表している系列ではない。また、事務職の求人数のシェアではなく、2つの求人倍率(求人÷求職者)を比較した補助指標である点に注意が必要
  • e-Statの長期時系列表では、2012〜2022年度は旧区分名「事務的職業」、2022年度以降は新区分名「事務従事者」という異なる区分名で数値が公表されている(2022年度は両区分が重複)。重複年度の値(0.45倍/0.44倍)は近いが、区分の呼称・範囲が変わっている可能性があり、完全に同一区分の連続とは確認できていない。比率が2021年度(35.2%)から2022年度(37.0%)にかけて上昇幅が大きいのも、この区分変更の影響を排除できていない
  • 求人倍率の変動には、景気動向・人手不足感・賃金水準など生成AI以外の要因が複合しており、この統計だけから生成AIの影響を単独で切り出すことはできない
  • 「事務従事者」区分には一般事務のほか会計事務・営業事務・生産関連事務・運輸事務・事務用機器操作員なども含まれる。直近1年の低下率が一般事務従事者と事務従事者全体で異なることは確認したが、会計事務・営業事務等の内訳ごとの個別の動きまでは確認していない
  • 直近1年の変化(事務職の相対的な低下率の大きさ)は1時点の前年同月比較に基づくものであり、一時的な変動か構造的な転換かはこの記事のデータだけでは判断できない

出典(2026年7月18日閲覧): 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年5月分)について」(発表ページ参考統計表PDF)/ e-Stat 政府統計の総合窓口「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」長期時系列表21 職業別有効求人倍率(ファイル一覧ページ、2022年4月分以降と2023年3月分までの2ファイルを参照)

Related
PORTRAIT
64×64
サク
UMT株式会社 取締役 / フォースネット株式会社 執行役員

IT業界25年のエンジニア(コンサル・プロダクトマネージャー15年、Python 10年)。2児の父として、AIを使った家庭学習の仕組みを自作して毎日運用し、地元・横浜/鎌倉ではAI・パソコン教室も不定期に開いている。このサイトには、教育とAIについて調べたこと・考えたことと、その道具を置いている。